昭和でのキャリア教育が目指すもの

対談
昭和女子大学附属
昭和中学校・昭和高等学校 校長
真下 峯子先生
2021年度中央委員会(生徒会)委員長
T・Rさん
生徒たちが「自分も意思決定の場所に立っていいのだ。
何かを良くするためには自分の考えや経験から、
アイデアを提起していいのだ」と思ってほしい
真下 昭和の⽣徒たちはとても良い⼈で、「先⽣はこう考えるだろうな」と先回りして考えて、遠慮しているようなところが⾒受けられて、そこのところをすごく残念に思います。
だから、⾃分たちの学びや学校⽣活をどのようにするのがいいか、⾃分⾃⾝で考えて、それを進めていけるようなリーダーシップを発揮してくれるといいなと思います。⾃分で考えて、「これだったらいいな」と思うことをどんどん提案して、先⽣や友達とたくさん対話して、物事をつくっていければいいなと思っているのです。
T・Rさんや⼀つ上の先輩たちの動きを⾒ていると、そういうことが⼗分にできる⼒があると思うのですが……︖
対談
T・R 私は、これからの社会でもっと女性が活躍できたらいいなと思います。私自身、将来、どんなに小さな光であっても、社会で貢献できる人材になりたいというのはずっと思っていることです。
それに向けて、学校でも今、生徒の生活に必要な新たな規定などを考えていく中で、さまざまなことを経験させていただいて、そういう素養を少しずつ養うことができているのかなと思っています。

真下 ミシェル・オバマの著書の中に、「自分は大統領夫人だが、自分が意思決定の場に立っていいのかどうか心配だった」というようなことが書かれています。
結局、女性が活躍するためには、女性が意思決定の場に立って、自分の意思を表明して、いろいろな人と相談しながら決めていくことが必要なので、ぜひ昭和の生徒たちが「自分も意思決定の場所に立っていいのだ。何かを良くするためには自分の考えや経験から、アイデアを提起していいのだ」と思ってほしい。
それから、これもよく言っている「問いを立てる」。「これ、どうしてなの?」「どうすればいいんだろう?」ということを絶えず考え続けるような、そんな学校生活を送ってもらいたいと思っています。

T・R 確かに私も行動する中で、リーダーとして選ばれた立場でも「これをしていいのかどうか」と不安に感じてしまうこともあるのですが、そこでも周りのことを気にしつつ、自分の想いを伝えたり、行動に移したりすることも大事だなということも最近感じています。
「問いを持つ」ことに関しても、研究を進めていく上で、今何がわかっていないのか、何を知りたいのか、それを知るためにはどういうプロセスで、どういう実験をすればいいのかを考えるのも大切だととても感じています。
研究だけではなくて、いつも日常的に何事に対しても「なぜ?」という目で見ることを大切にしていきたいと思います。

真下 リーダーシップの話もそうですが、そういうことをみんなが一人ひとり考えてほしい。
組織の中のリーダーもあるけれど、それぞれが自分自身で自分自身の考え方をリードしていくような力を持った人たちの集団に育っていけば、自分たちの生活をもっと良く、もっと素敵にするためにどうしたらいいのかということを、学校全体で考えられるだろうし、社会のためにどんなことをすれば役に立ち、価値があるのかを考えられるようになるだろうと思うのです。
T・R 今までリーダーについて考える機会が何度かあり、その際に⾃分の理想のリーダー像として思ったのは、「聞き上⼿になりたい」ということでした。
周りの⼈の話を聞くことも⼤切だし、⼀⼈ひとりの悩みなども話しやすい環境をつくりたいと思っています。そういうことを通して、周りの⼈の可能性を引き出せるような⼈になりたいです。話してもらった上で、その⼈にはどういうことが合っているかを提案できたらいいなと思うし、もしその⼈が⾃分を狭い範囲で考えてしまっていたら、もっと広い視野を持って、「あなたはこういうことができるわよ」ということを気付かせてあげられるような存在になれたらとそうすればみんなの意識ももっと⾼まっていくと思うし、そんなリーダー像を目指しています。
対談01
本を読むこと。社会にアンテナを立てること。
自分の中にキャッチしたものを使って、
自分の意見を持つこと。最後は行動すること。
真下 先週の火曜日に先生たちの研修会を行ったのですが、その会のテーマは「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity&Inclusion)」(個々の「違い」を受け入れ、認め合い、活かしていくこと)。
先生方の中にも、女子校で仕事をして、「思春期の女の子たちを育てていくときに、自分はどういうふうにするのか」という、ある意味の思い込みがあるわけ。
その思い込みを客観視しながら、「本当にこの方向でいいのかというのを考えましょうね」というので、外部の先生に来ていただいて問題提起してもらって……。これからの時代を生きていく女の子たちに対して、「自分たちの教育活動をどういうふうに変えていくのか、それとも維持していくのか。どこを残して、どこを進化させるのかを考えてほしい」と思って研修会をやったのです。
それでいま、40人ぐらいの先生から研修会の振り返りのアンケートが返って来ているのですが、中には「これから人口も減っていき、女の子たちが社会の中でも活躍していかないと、日本の国も世界も成り立たないような時代になってきた。そのとき、昭和の生徒たちが自分の力を発揮できる女性になってくれるようにするためには、どういうふうにしていくのかを改めて考える必要があります」という意見を書いてくれた先生もいました。
でも、私が見ている限りでは、「生徒たちになるべく失敗をさせない」とか、「なるべく時間をかけずにいろいろなことができるように」というふうに考えている先生たちもまだまだたくさんいるのです。
昭和の学校全体が、「生徒たちに任せて、もし失敗したら、そこのところは先生も一緒に補っていく」という体制に動いていけば、もっともっと生徒たちの実力が伸びていくのではないかと考えているのですが、どうですか?

T・R 確かに物事を行っていく上で、失敗を恐れてしまうことは、私もありました。
でも、「失敗があってこその成功」だと私は考えていて、失敗を味わったから、「次はこうしないと」と考える力も大事になってくると思うので、失敗をすることは、学校の教育としても必要な部分なのかなと思っています。
固定観念的に「男性がやってくれるから」と考えている人も、多分まだまだいると思っています。でも、これからの世界ではそういうのが通用しないことだと思っているので、女性・男性の性別は関係なしにそれぞれができることをやっていくことが大切なことだと思っています。
先生の中に、そういった「生徒に失敗をさせたくない」という考えがもしあるとしたら、そこはやはり変わっていかなくてはいけないと思います。

真下 大人になったり、社会に出たりすると、失敗なんてもう日常茶飯事で、そんなことでいちいちへこたれていると物事は進まなくなってしまう。
失敗の経験がなくて社会人になってしまったので、些細な失敗から立ち直れなくなってしまったという人たちを、私はたくさん見てきたのね。だから学生時代の失敗なんて、ある意味大したことはない。 経験としていっぱい失敗したほうがいいし、うまくいかなかった経験もたくさんして、でもそれをどうにかして乗り越えたという経験をするところが、中高時代だと思っているのです。
だから「中高時代に失敗したことがないので、大人になってから失敗すると立ち直れない」ではなくて、「中高でいろいろうまくいかないことも、どうにかして私はやり遂げてきました」という気持ちを生徒の皆さんには持ってほしい。ただ、全員が一気にそうはならないからね(笑)。
組織の中でリーダーとして動く人たちがそういう意識を発揮しながら、周りの友だちが「あっ、ああいうふうにやればいいんだ」という見本になるのが、組織の中のリーダーなのかなと思うのですが、どうですか?
中央委員会で、T・Rさんが、「NOチャイムで行きましょう。できます」と言ってくれたので、今年はNOチャイムでやっています。そんなところはどういうふうに考えますか?

T・R チャイムをなくしたことによって、一人ひとりが時計を見て確認したり、時間についての意識が高まったり、というのは感じています。
でも全員が全員、始業時間にちゃんと座れているかといえば、そういうわけではなくて……。やっぱり時計を見ることができていない人もいる中で、そこで感じるのは、言葉がけもそうなのですが、「行動で示す」ことも必要なことだと思っています。
呼びかけ方も、ただ注意するのではなくて、目的をちゃんと持って、いまどういうふうに行動すべきかを、一人ひとりが意識を強めていってほしいなあという思いで呼びかけを行っています。
私は中学・高校生活の中で体験してきた失敗は、実際に失敗してしまったときは、つらい気持ちになったり、「なんでこうなっちゃうんだろう?」と思ったりもしましたが、いま振り返ってみて、その失敗があったからこそ、いまの自分があるなと強く感じています。
真下 私が昭和の校長に着任してから、いつも言っていることは、まずはちゃんと事実を把握すること。そして、事実を把握したら、自分がそれに対してどう考えるのか、どう動くのかを考えること。
世の中の動きに対しても、まず私が事実を把握して、それから生徒の皆さんにそれをどうやって伝えようかと考えて、具体的にどのタイミングでどう行動しようかということを考えています。
T・Rさんは昭和のリーダーとして、「知ること、そして知ったら考えるだけで終わりにしないで行動すること」をどういうふうに考えていますか?
真下峯子 校長
T・R 学校のことを知って、考えて、練って、行動に移すということが、自分の中でもいちばんハードなことだと感じています。自分の中では「考えられたな、やったな」という気持ちが得られても、実際はそれが何にもなっていないと思うことが正直あります。「行動に移す」ことは、大きな壁ではあるのですが、必ず乗り越えなければならないものだと思っています。
でも、ちゃんと知ることから始まって、自分の中でちゃんと考えをまとめて、どういう形で実行するのかということをしっかり考えないと行動には移せないと思っています。だから、もしそこの時間が長くかかってしまったとしても、ちゃんと深くまで掘り下げて考えて、しっかり行動に移せるという段階までもっていくことが必要だと思います。絶対に「行動に移す」のは絶対に大切なのですが、考えてから行動に移すまでの期間は甘く見てはいけないと感じています。

真下 T・Rさんからもう一つ聞きたいのは、昭和のいわゆる組織のリーダーとして動いている人たちの動きについて。もっと学校全体の動きを変えていくとしたら、どんなことが強くなればいいと、T・Rさんは思っているのかなと。
大人の社会だと、いろいろな仕事の中で評価されるのは、その人の動きによって組織全体がもっと良くなったり、もっと変わったり、社会全体に大きなインパクトを与えられる仕事のできる人がとても大切だと言われています。
学校の中の組織では、それを生徒のリーダーたち、女の子たちがもっともっと力をつけて、社会でも活躍できるような力がつくような学校生活を送れることに結びついてくると、私は思っているのですが、どうですか?

T・R 中央委員会に関わってくるのは、今は推薦という形なのですが、私が前から思っていることとして、推薦で選んでもらった人は、確かに信頼されていたり、優れている部分があったりするのかもしれないのですが、組織ってそういうものだけではないのかなと思っています。個人の心持ちというか、気持ちも大切な部分があると思うので、私としては立候補の形も取り入れたいと思っています。
立候補するからには、それなりの覚悟があるわけだし、「実際に行動したい」という気持ちが強い方だと思うのです。いま委員会の全員を一気に立候補にシフトするのは難しいと思うのですが、立候補の枠を入れることができないかと考えています。「立候補する人の熱さってすごい」と私は考えています。「やりたい」という気持ち、「学校を良くしたいんだ」という気持ちが強い人の影響ってすごいと思うんですよ。そういう立候補してくれた人と一緒に、組織の中でもどんどんやっていければいいと思っています。
中央委員会活動に参加するそれぞれが、組織の中での心持ちというか、どこをゴールに目指して行くのか全員の考えが一致しないと、組織としても成り立っていかないのかなと、私は思います。
私はもう次の年度は中央委員会に関われないと思うのですが、ぜひやってほしいこととして、年度最初の中央委員会の活動で集まったときに、それぞれの目的や意思、「何を目指しているのか」をみんなでちゃんと共有してほしい。方向がバラバラだとやっぱりまとまらないと思うので、共通する一つのゴールを目指して進めていってほしいなという思いがあります。

真下 今回、中央委員会から発行する冊子二つに巻頭言を書いたの。その巻頭言には、先生方に対しては「『女子校で働く』ってどういうことですか? 考え直してください。考えてみてください」と。生徒の皆さんには「女子校で学ぶこと、『女子校で学んで、あなたはどういう力を身につけたいですか?』ということを改めて考えてみましょう」というのを提起したの。
女子校というのは、思春期のときにジェンダーバイアスがかからずに、いろいろなことにのびのびと挑戦できる、すごくいい環境だと、私は思っているのですが、T・Rさんはどう思いますか?

T・R 私も女子校という環境はいいなと思っています。確かに実際に社会に出たら男性とも関わっていくわけで、男性の考え方を理解したり、合わせたりする場面も少しはあるのかなと思うのですが、いまは女子だけだからこそ味わえる体験や考え方があると思っています。女子校だからのびのびできるというのは、やっぱりあるなと私も感じています。
男女共学だと「これは男子がやってくれるから」みたいなこともやっぱり生まれてくると思いますが、女子校だとすべてを女子がやることになるので、自分の可能性を閉じ込めずに済むかなと思っているのです。自分で「これやりたい」と思ったことは何でも行動に移せるのかなというのはありますね。

真下 昭和に「女の子だからやめときなさい」はないもんね。

T・R 昨年度から真下先生が昭和の校長になってくださって、私もすごく尊敬している部分があります。
式典や行事の後で講評してくださる際に、校長のお話がとても染み込んできて、それでもっと自覚することができています。
真下校長が来てくださってから、将来のことをすごく意識するようになって、将来女性が活躍する社会になっていくという中で、自分はいまからどういうことができるのかを考えるようになりました。
さまざまな活動をやっている中で、「あ、これは将来自分の役に立つ」ということを実感しながらできていて、自分の行動を後押ししてくださっているなというのを感じています。真下校長もそういうことは、高校生のときから考えていらっしゃったんですか?

真下 私の場合、私の周りにいた先生方が「どんどんやりなさい。困ったことがあったら相談しなさい」っていつも言ってくれていたし、そばで見ていてくれました。大変になったときは自分からSOSサインを出して、というふうにして私自身が育ってきましたから。
世の中で仕事して、活躍して、ちゃんと生きていくためには、自分の意見もちゃんと持ちながら、でもいろいろな人とも折り合いつけて。でも、「これはいい」と思ったことはどうにかできるように実現していきたいと思って、これまで来たのですが……。私もまあ、「自分みたいになりなさい」とは言っていないけれども(笑)。
日本の女の子たちみんながそういうふうな気持ちを持てば、日本の社会はもっともっと良くなると思っています。
本を読むこと、社会に向けて自分のアンテナを立てること、アンテナを立てるだけではなくて、自分の中にキャッチしたものを使って、ちゃんと自分の意見を持つこと。そして、最後は行動することをこれからもやっていってくれるといいと思います。

T・R ありがとうございます。